Share

第4話 治癒魔法

Author: 青砥尭杜
last update Last Updated: 2025-01-24 17:29:21

 病室には四人の傷病者がおり、各々簡素なベッドで横になっていた。

 若い女性の看護師と初老の医師らしき男性の姿もあった。

 マジェスタは一人の傷病者の前で立ち止まると、カイトに視線を向けてから口を開いた。

「この者を治療していただきたく存じます」

 身体を起こそうとする中年の男性傷病者を、マジェスタは無言で右手をかざすだけで制した。

 疑問を口にし始めるとキリが無いと判断したカイトは、

「どうやればいいんですか?」

 と端的に方法だけを訊いた。

 カイトの返答に満足したことを示すように、微かに頷いてからマジェスタは説明を始めた。

「まず、患部に手をかざし、体内を巡る魔力に意識を集中していただきます。魔力を意識できましたら、次に傷を治すと念じてくださいませ。さすれば、かざした右手から脳に傷のイメージが伝わってくるはずでございます」

 マジェスタの説明を把握したわけではないが、一応の理解だけはできたカイトは、

「体内を巡る魔力、ですか……とりあえず、やってみましょう」

 と応じて素直に試してみることにした。

 カイトはマジェスタの説明通りに、傷病者の肩に巻かれた包帯の上に右手をかざした。

 目を閉じたカイトは、かざした右手に意識を集中してみる。

 今まで感じたことのない、体内を巡っている微弱な電流のようなものを意識で捉えたカイトは、これがマジェスタの言った魔力なんだろうと判断し、すかさず「傷を治す」と念じてみた。

 カイトの右手から金色の粒子が発生し始め、ゆらゆらと空気中を漂い始める。

 病室にいる濃紺の軍服を着た青年や若い女性の看護師が、カイトの右手から発生する金色の粒子を凝視して息を呑む。

 目を閉じて集中し続けるカイトの脳裏に、包帯で覆われた肩の裂傷のイメージが鮮明に浮かんだ。

(なんだ……? 画像がダイレクトに脳に伝わってくる……透視してるみたいだ……)

 初めての感覚に戸惑いながらもカイトは、

「傷のイメージが、浮かびました」

 とありのままの状況を口にした。

 脳内に浮かんだイメージが消えてしまわないようにと、目を閉じたまま意識の集中を続けるカイトに向けてマジェスタが説明を加える。

「それでは次に、傷が治るイメージを浮かべながら「クラティオ」と詠唱してくださいませ。さすれば、治癒魔法が発動するはずでございます」

 マジェスタの言葉に従って、カイトは裂傷が治っていくイメージを浮かべながら初めて聞く言葉を発声した。

「……クラティオ」

 体内を巡る微弱な電流のようなものが一気に右手へと集中する感覚に驚きながらも、カイトはそのまま念じ続けた。

 カイトの右手から発生した無数の金色の粒子が傷病者の患部に集まっていく。

 集合した金色の粒子がパッと一瞬だけ強く光り輝いてから消滅する。

 傷病者の肩にあった裂傷の完治した後のイメージが、カイトの脳裏にはっきりと浮かぶ。

 意識の集中を解いたカイトは軽い脱力感を覚えた。

「終わった、んだと……と思います」

 カイトがぼそりと伝えると、ゆったりと頭を下げたマジェスタが、

「かしこまりました。感謝申し上げます」

 と礼を述べながら若い女性の看護師に目配せした。

 無言で首肯した看護師が傷病者の肩に巻かれた包帯をゆっくりとほどく。

 肩の裂傷が完治していることを確認した看護師は、カイトに向って深々と頭を下げた。

「完治しております」

 看護師の言葉を聞いた初老の医師や軍服の青年、そしてマジェスタがカイトに対し深々と黙礼した。

 マジェスタが頭を下げたままカイトに問い掛ける。

「順序が前後してしまった無礼をお詫び申し上げます。貴殿の御尊名をお伺いできますでしょうか」

 自分がまだ名乗っていなかったことに気付いたカイトは、

「……快人、渡瀬快人です」

 と素直に本名を伝えた。

「失礼ですが、御家名はアナンでは御座いませんか?」

「確かに、実の父親の姓は阿南ですが……どうしてそれを?」

 カイトの名前を確認したマジェスタは、カイトの疑問には答えず口上を述べた。

「カイト閣下。閣下の御登城を心よりお慶び申し上げます」

 マジェスタの口上を聞いたカイトは眉根を寄せた。

(閣下? 俺が?)

 困惑するカイトに向かって、ゆっくりと頭を上げたマジェスタは、

「カイト閣下には、これより女王陛下に謁見していただきたく存じます」

 と口にしてから、マジェスタの後ろに控えていた軍服の青年に目配せした。

 濃紺の軍服を着た青年は無言で首肯すると、機敏ながら音を立てない挙動をみせて病室から出ていった。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 異世界は親子の顔をしていない   第94話 機縁

     アクーラが勝者となった模擬戦を見届けたラブリュス魔道士団側の反応は、連合側の喝采を引き立てるかのように対照的で静かなものだった。 ヴァイオレットだけが敗者となったアリアのもとへと駆け寄ったが、そのヴァイオレットも寄り添うだけでアリアへ声を掛けることはなかった。 無言で歩き始めたティーダとダイキを先頭にして、ラブリュス魔道士団は撤退を始めた。 ぞろぞろと河川港へと向かって歩を進める漆黒の軍服の列にアリアは無言で加わった。 この場を去るダイキを見送る形となったアルテッツァもまた無言だった。 胸中で浮かんでは消える言葉たちを喉の奥で堰き止めるアルテッツァと視線を合わせたダイキが、「アルテッツァ卿!」 と大声で呼び掛ける。 唐突な呼び掛けに驚くアルテッツァに対し、撤退の足を止めたダイキは一度大きく頭を下げると、離れたアルテッツァへ届くよう大声を張った。「こんなこと言える立場じゃないってことは重々承知の上で、敢えて言う! カイトを頼みます!」 今後のキーパーソンとも成り得る「裏切りの聖魔道士」が発した意外な言葉に、この世界でも指折りの魔道士たちが疑問の視線を向ける中でただ一人、首肯を返したアルテッツァは微苦笑を浮かべていた。「元より承知!」 アルテッツァの大きな声での返答を聞いたダイキは右手を挙げて応じると、もう一度大きく頭を下げてから撤退の列へと戻った。 ラブリュス魔道士団が去った広場に、それまで建物に籠もっていた街の住民たちがおそるおそる様子をうかがいに出てくる。 アクーラにポンっと背中を押されたクラリティは、広場の中央にある噴水のもとまでゆっくり歩を進めると、一様に不安を浮かべる住民たちに向かって宣言した。「ご安心ください! セナート帝国は撤退しました! ここに集っている世界屈指の魔道士たちはヒンドゥスターンの味方です!」 クラリティが高らかに宣言すると、住民たちが一斉にわっと歓声を上げた。 ベンガラの役人たちは吉報を伝えるために街中を走り回り、カンカンカンと短い間隔で鳴っていた警鐘に代わって長い余韻を持つ教会の鐘が平時の再来を告げた。 カイトら十名からなる連合サイドの魔道士たちは、一旦ベンガラに滞在することを決めると役場ではなく宿へと移動した。 ヒンドゥスターン王国内に構築されたブリタンニア連合王国の情報網によって、即日ヒンド

  • 異世界は親子の顔をしていない   第93話 勝者の拳

     アクーラとアリア。 この異世界で二十人しか確認されていない魔範士の中でも特異な存在である二人は、双方とも召喚魔法の行使に必要な精神の集中とイメージの構築を無視するような速さで召喚を済ませてしまった。 通常の召喚であれば魔法陣から異形を現すはずのロキとベルゼブブは、真紅と黄金の幻影として一瞬その波動のみを覗かせると、アクーラとアリアそれぞれの全身を覆う真紅と黄金の発光する衣となった。 先に仕掛けたのは、黄金の光を全身に纏ったアリアだった。 およそ人体の速度とは思えない凄まじい速さで突進するアリア。 アリアはその小さい両手の細く華奢な指の先に発生させた、超高速で旋回する黄金に輝く風の刃を振るいアクーラに斬り掛かった。 落ち着き払った表情のままアリアの突進を直視していたアクーラは、「芸のない先手ですねえ」 と応じる声とともに、右手に成形したレイピアの如き青白い炎の剣でアリアの鋭い風の切っ先を受け流してみせた。 その小さな身体を黄金に発光する弾丸と化したアリアが、「その余裕ごと切り裂いてあげるよっ!」 と張り上げた声とともに剃刀のように鋭い方向転換をみせアクーラへの猛攻に出る。 カイトの動体視力では見切ろうとする気が早々に失せてしまうアリアの高速での連撃を、アクーラは舞うように全て受け流してみせた。「これは、もう……」 ボソッと自分にとっての天敵同士が繰り広げる異様な戦闘を目の前にした茫然を漏らしてしまったカイトの左肩に、そっとファセルの左手が置かれる。 背後から身を寄せたファセルは、カイトの耳元でささやいた。「常軌を逸してる光景よね。それでも、よく見ておきなさい。あなたにとっても貴重な機会ですからね」 ささやきかけた助言に「はい」と素直にうなずいたカイトを、安心させるようにファセルが補足する。「一見するとアクーラ卿が防戦一方に見えるだろうけど、大丈夫よ。ベルゼブブを憑依させたアリア卿の強みは速さ。その速度に対応している時点でアクーラ卿に負けはないわ。それに、アリア卿は魔範士クラスとの戦闘をあまり経験していないみたいね」「そこまで、分かるものなんですか?」 率直な疑問を口にしたカイトに対し、ファセルは柔らかな口調のまま即答した。「ええ、魔範士ともなれば、魔力を一気に注ぎ込むような猛攻は不利になるのがセオリーなの。相手の出方に合わ

  • 異世界は親子の顔をしていない   第92話 天敵、あるいは宿命の相手

     その愛らしい顔と小柄な身体でもって、己の不遜を敢えて誇示してみせるアリアを正視しながら近付いたアクーラは、身長差のあるアリアを見下ろす位置まで寄ってから足を止めた。「卿が返り血で興奮するっていう狂乱の魔範士ですかあ」 軽蔑を露わにしたアクーラの第一声に対して、アリアは不遜な笑みを浮かべたままアクーラの胸元に山吹色の刺繍で標されたローマ数字に目をやった。「そうだよ。ボクが戦闘でしか興奮できない変態の南方元帥、アリア・ヴォルペってわけ。メーソンリーの第三席次ってことは、卿が植民地を血で染めた功績で出世した「鬼神」アクーラ卿ってわけだ」 出会い頭の応酬で既に臨界へと達した二人の殺気を間近で受けながらも、立ち会いを務めることとなったシルビアは冷静な態度を崩さなかった。「ラブリュス魔道士団の第六席次を預かる、シルビア・ゲルツと申します。立ち会いを務めます」 シルビアの声に反応したアクーラが、挑発を含んだ笑みから品定めする者の微笑へと表情を変える。「こんな形で顔を合わせることになるとは思いませんでしたねえ、シルビア卿。メーソンリー魔道士団の第三席次、アクーラ・ウォークレットですよお。よろしくお願いしますねえ」「こちらこそ。よろしくお願いいたします」 余裕を保って軽い会釈を返すシルビアに対し、アクーラは品定めする視線のまま応じた。「流石はセナート帝国の内政を掌握するグロリア卿の懐刀と呼ばれる方ですねえ。肝が据わってる。ヘイムダルを操らせたら右に出る者はいないって噂も、どうやら本当みたいですねえ」 探りを入れるアクーラの言葉を、シルビアは当然のように受け流した。「買いかぶりですよ。私はヘイムダルを行使することに特化した魔教士で、情報に携わる中でグロリア卿に目を掛けていただくようになった、というだけのことです」「アタシが最も警戒しなきゃいけない魔道士は、やはりシルビア卿。貴殿のようですねえ。ロキの敵とも、フレイヤの首輪の探し手とも呼ばれるヘイムダルの使い手が、セナート帝国の中枢にいるってのは、どうにも宿命染みてますよねえ」  その言葉に違わず、明らかに警戒をシルビアへと向けているアクーラの態度は、アリアの自尊心を刺激するには充分過ぎるものだった。「始めようか。卿の相手はボク、アリア・ヴォルペだ」「そうでしたねえ。じゃあ、始めましょうかあ。シルビア

  • 異世界は親子の顔をしていない   第91話 応じる者が負う役目

    「ここに揃ってるメンツだと、席次が一番高いのはシルビア卿だからね。立ち会い、お願いできるかな?」 アリアに立ち会いを頼まれたシルビアは、やれやれといった表情を作ってみせて答えた。「……分かりました。ただし、相手が応じるのなら、ですよ?」「それは大丈夫、応じるよ。間違いなくね」 にたりと笑いながら応じたアリアは、つかつかと軽い足取りで広場の中央にある噴水へ向かって歩を進めた。 アリアとその後に続くシルビアの姿を視認したアクーラが、対峙する同盟側の魔道士の中で真っ先に反応を示した。「なにやら、二人ばっかし、のこのこ出てきましたねえ」「え!?」 アクーラらが待つ同盟側の魔道士たちのもとに戻り、状況が一変したことを報告していたカイトはアクーラの声に驚き「えっ!?」と声を上げながら振り返った。 広場の中央にある噴水に近付いたアリアは、足を止めることも無く遊びに誘う声で同盟側の魔道士に向かって声を掛けた。 「おーい! ラブリュスのアリアだけど、誰か、ボクと模擬戦やんない?」 アリアの場違いな声を聞いたアクーラが、誘いに応じるように首をポキリと鳴らした。「だ、そうですよお。そんじゃ、アタシが行かせてもらいましょうかねえ」「まっ、待ってください! 模擬戦に応じる義理なんてありません」 慌てて止めに入るカイトへ視線を向けたアクーラの表情は、微かな笑みを浮かべていたが瞳には強い光を孕ませていた。「そうはいきませんよお。あっちはうちの大事な魔道士を二人も殺してるんですからねえ。それに、まだ初めての恋も知らなかったっていうアパラージタの魔道士も。ですよね? クラリティ卿」 アクーラに声を向けられたクラリティが静かにうなずく。「はい……わたしにとって、弟のような存在でした……」 瞳を潤ませたクラリティの言葉を受けて、アクーラが決意を示した。「メーソンリーのエースナンバーを背負う者として、仇討ちを為さねばならない身ですからねえ。ここはアタシが行かせてもらいますよお。カイト卿。卿もご存知の通り、魔道士同士による戦場での模擬戦はウァティカヌス法で明文化こそされてなくても、決闘から派生した名誉を懸けるものとして今でも意味を持ってます。筆頭魔道士団に属する魔道士にとって、名誉は非常に重いもんですからねえ。まあ、安心して見ててくださいよお。ああいうガキの鼻っ柱を

  • 異世界は親子の顔をしていない   第90話 愉しみへの執着

     魔道士は国防を担う存在として、既存の社会構造を踏まえつつ移りゆく情勢との兼ね合いを探っていくのか、あるいは既存の権力構造を覆し魔道士が権力を掌握することで歴史の舵を取るのか。 今後の世界を二分する対立軸と成り得る二つの陣営で、その主戦力を担うこととなるエース級の魔道士たちが、田舎町の広場という僅かな距離を隔てて対峙している。 否応なく張り詰める空気をまるで気にする様子もなく、軽い足取りでティーダたちのもとへ戻ったダイキは、休日の行き先が決まったことを伝えるかのように撤退の決定を口にした。「そんじゃまあ、予定通りに撤退ってことで。よろしく」 ダイキの口調に対し、半ば呆れたといった表情を浮かべてみせたティーダは、「はいはい……そうと決まれば、こんな暑苦しいとことはさっさとおさらばするとしよう」 と了承を返した。 ティーダへ微苦笑を向けたダイキが、ラブリュス魔道士団の威光を示す漆黒の軍服の胸元を掴んでパタパタと空気を取り込みながら応じる。「そうしよう。この軍服は、この土地には合わんて」 ダイキの様子に不満の表情を浮かべていたアリアが、「やっぱさ……つまんないなあ。ぜんぜん面白くないよ」 と駄々をこねる子供の口調で不平を口にする。 ダイキはすまなそうな表情を作りながらアリアへと視線を向けた。「まあ、愉しむ気満々だったアリア卿にはほんと申し訳ないんだけど、この場の差配は俺に任されているってことで。今回だけは俺の顔を立ててくれないかなあ」 なだめる口調だったダイキとは違い、ティーダがアリアへ向けた口調は諭すものだった。「差配はダイキ卿に任せる。それが陛下の下知だ。それを承知の上で、卿は不服を口にするってのか?」 ティーダの言葉を受け流すように、アリアは視線を斜め上の空中に向けたまま答えた。「うーん……やっぱさあ、つまんないものはつまんないんだよ。アナン親子が対面するってためだけなら、こんな大仰なお膳立てなんて必要ないでしょ。こんな豪華なメンツが揃ってるのにさあ、立派な矛を交えることもなしで、はい、さよなら? そっちのがぜんぜん不自然じゃない?」 アリアの物言いに同調したのはヴァイオレットだった。「あたしも、そう思うな」「だよねえ?」アリアはヴァイオレットを一瞥してからダイキへと視線を向けた。「ダイキ卿。卿の顔は立てて撤退すること自体に

  • 異世界は親子の顔をしていない   第89話 親子としての最後の会話

    「父さん……いや、ダイキ卿。あなたを父親として呼ぶことに、俺は強い違和感を持ってしまいました。今後は名前で呼ばせてもらいます」 血の繋がった実の親子としての関係を、子供のほうから拒絶するという意思を示したカイトに対してダイキは、「まあ、それも当然だわなあ。おまえの好きにすりゃあいいよ、呼び方なんてな」 と薄ら笑いを浮かべつつ受け入れた。 異世界で十五年ぶりに顔を合わせた実の父親に向かって息子なりの抵抗を思い切ってぶつけてみたカイトにとって、ダイキの反応は失望を通り越して諦観を抱かせるものだった。「大事なことなので、確認しておきますが、ミズガルズ王国に戻る気はもう無いんですね?」「ああ、ないよ。今の自由な生活が気に入ってるんでね」「今は自由、なんですか?」「ミズガルズに比べりゃ断然、な。それに、治癒魔法ってのはひとつの国が独占するもんでもないだろ。ミズガルズにゃオヤジがいる。魔道士としちゃあ引退したかもしれんが治癒魔法の使い手としては現役だ。おまえもミズガルズに縛られる必要なんか無いってことさ」 世間話でもするように持論を語るダイキに対してカイトは、「俺はミズガルズ王国を護る筆頭魔道士団、トワゾンドールの首席魔道士です」 と静かな口調の中に毅然とした拒否を含ませて答えた。「気に入ってるのか? 今の立場を」「自分の今の力を受け入れた上で、俺が選択したこの世界での立場です。気に入る気に入らないの話じゃない」「おまえ、マジメだなあ……」 呆れた表情を浮かべてみせるダイキに対して、カイトは同じ質問を返してみることにした。「ダイキ卿は、今の立場を気に入っているんですか?」 ダイキは「んー、立場ねえ……」と顎を軽く掻いてから質問に答えた。「気に入ってるちゃあ気に入ってるのかもな。まあ、認識しなきゃこの世界でも生きてけないしな、立場ってやつは。セナート帝国には俺の治癒魔法で助かる人が大勢いる。ミズガルズより人口が多いセナートに俺がいるってのは、逆に自然な流れなんじゃねえかなとも思ってる」「自然な流れ、なんて虫のいい話が通ると本気で思ってるんですか? 現実に犠牲が出た戦争によって囚われた、トワゾンドールの元首席魔道士なんですよ、卿は」 即座に反論を口にしたカイトへ向けて、ダイキは軽い首肯を返してみせた。「まあ、その通りなんだけどさ。おまえは

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status